『吸血鬼』 The Vampyre ; a Tale. その2 by Dr.John William Polidori/萩原 學(訳)
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オーブリーも気付かざるを得なかった事に、施しを授けたのは、有徳でありながら不運にも貧乏に転落した人への徳行ではなかった。そんな人達は隠しもしない冷笑を以て摘み出された。対して放蕩者が何か求めに来たときには、その欲求を窘めるどころか、ますます欲望に浸れるように、あるいは更に深く罪悪へ沈めるように、惜しみない支援を得て帰された。これは、しかし。高潔な貧しい人々の廉恥よりも、一般に優勢である悪徳こそが、ずっと面白がられたに過ぎない。閣下の慈善には1種の儀式めいたところがあって、それがなおのこと心に来るのだった。施しが授けられた者全てが必ずや、呪いを受けたと気づくのだ。というのは漏れなく、断頭台に上るか、艱難辛苦に喘ぐ羽目になったからである。
通りすがりのブリュッセルやら他の町やらで、オーブリーが驚いた事に。彼の連れは、それはもう熱心に、悪徳の栄えるど真ん中へと突っ込んで行きたがったのだ。全身全霊でカード賭博の席に臨んだとでもいうか。賭けをしても常勝。流石に、より鋭い敵には取りこぼしもあったが。とはいえ、いつも変わらぬ顔ぶれが並ぶのは、そういう事かと社会の縮図を見る思いだった。ところがそうでもないのは、軽率な青二才や、子沢山の不運な父祖に出くわした途端、運命の掟にでも化したかのよう……見た目は関心を持たないようでありながら、その目ばかりは、半死半生のネズミを弄ぶ猫よりも、火と輝くのであった。
街という街で、裕福だった若者を、いい気にさせた連中から引き離し放り出した。牢獄の孤独にあっては、この悪鬼の手の届くところに引きずり込んだ運命を呪うばかり。はたまた、雁首揃えて居座る親父ども多数。つい最近までの莫大な富から、今や餓(かつ)えた腹を満たすにも足りない鐚銭1つも残らず、空きっ腹抱えて無言な子供たちの話ばかりしているような。賭け事の机に出された金には手をつけるまでもなく、負け犬多数にすぐ掠め取られた。罪のない子が握りしめた、震える手から奪ったばかりの最後の1ギルダまでも。これなどはある程度、無知の然らしむる結果でもあろうが、ただ知っているくらいでは所詮、海千山千の狡猾に対抗できるものでは無い。
オーブリー悩める事しばしば、この事を友人に言ってやろうか、そしてまた廃人の破滅を保証するばかりで、自身に利がある訳でもなかった慈善事業で遊ぶのは辞めるように頼もうかと。……考えて、先送りしていた。毎日のように、率直に開放的に話せるような機会を友人がくれないかと待ち受け。決してそうはならなかった。車中のラッスェン卿は、野生の豊かな自然が見せる風景の移り変わる中にあって、一切変わる事がなく。その目は唇よりも話さず。オーブリーは好奇心の対象に迫りながら、その謎を解き明かそうとの虚しい望みに空回りしてばかり、捗々(はかばか)しい結果は得られずじまい。掻き立てられた想像力は、その謎に何か超自然的なものの容貌をすら纏わせ始めた。