掌編です。どなたでもご自由に読んでいただけたら嬉しいです。
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桜が散ったということはまた咲くのか、と憂鬱そうに2が言った。彼は美しいものが嫌いなので、そう思うのも仕方のないことだ。
ある晴れた土曜日の昼、2は寿司屋のだし巻き玉子の見事な仕上がりを見て癇癪を起こし、どうして自分をここに連れてきたのだと怒鳴ったかと思うと茶の入った湯呑みを床に投げつけた。『鮪』の文字がちょうど『魚』と『有』に分かれた。僕はその寿司屋に行けなくなった。
葉桜の下、僕が右足の靴擦れの部分に絆創膏を貼っているところを、2は興味深そうに見ている。2が僕を見ても落ち着いていられるのは、僕がまるで美しくないからである。友達にするなら美しくないやつに限る、と彼はマクドナルドのトイレの横の席で小さいコーラをぶくぶくさせながら言った。僕はなるほど、と思いながら、ナゲットの片側をバーベキューソースに、もう片側をマスタードソースに浸した。
「皮膚がめくれたということはまた戻るのか」、と2は桜はまた咲くのかと言ったときと同じような、しかしまったく違う口調で言った。美しくなるのではなく、元の平凡なアキレス腱に戻るだけだ。それがわかっているから、2も僕も冷静でいられた。
もしも僕のアキレス腱が桜になったら、彼は寿司屋で割った湯呑みの破片を持って追いかけてくるだろう。僕は元々足が遅いしアキレス腱が桜の状態では走るのに邪魔だから、すぐに追いつかれる。そして2は僕のアキレス腱を切る。『魚』の破片か『有』の破片のどちらかを使って。
「『魚』の方がいいな」と僕は言った。
「何の話だよ」と2が言った。
「魚は泳げるから、魚の方がいい」
靴擦れの部分がかすかに痛んだ。花びらが出るかも知れないし、鱗が出るかも知れなかった。