吸血鬼 The Vampyre, a Tale (その3)by Dr.John William Polidori/萩原 學(訳)
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一行は間もなくしてローマに到着し、それからしばらくの間、オーブリーは道連れを見かけなくなった。片やイタリアの伯爵夫人の朝の集いに毎日出席し、置いて行かれた方は別の人けのない都市の記念碑を探して回るという具合。
かくして交戦中の折しも、イギリスから便りが届き、封を開く手ももどかしく。最初のものは妹から、立ち上るは愛情以外の何物でもなく。今一つは保護者からの、これは彼を驚かせた。かの仲間に邪悪な力があると想像していたならば、その妄想に根拠がついたようなもの。
後見人たちは、すぐにその友人から離れるようにと力説し、勧告して、その性格は極めてタチが悪いと。抵抗できない誘惑の力を持っているため、彼の放蕩三昧は社会にとってより危険なものにも成り得ると。身持ちの悪い女に対する彼の軽蔑は、その人格を憎んでのものではなかった。ただ自分が満足するために、罪深くも自分の餌食となった相手を、穢れなき貞操の頂点から、汚名と堕落のどん底に突き落とす事を求めたのだと知れた。何となれば、彼が漁っていた女性たちは、見るからに貞操観念の塊だったのが、彼が去った後には仮面さえも捨て去り、悪徳の限りを尽くして世間の目に晒すことも厭わなくなったのだと。
オーブリーは離れようと決めた。あの人は、目を綻ばせるような明るい点を、まだ1つも示していないではないか。
あの男をすっぱり見捨てる為の、もっともらしい口実少々を捻り出そうと決心し。そのため当分より近づき見守る、些細な変化も見過ごさないように。
同じ集いに入り、すぐに気づいた。卿が、頻繁に訪れた家の娘に、経験不足を何とかしてやろうと言い寄っている。
イタリアでは、未婚の女性が社交の場で出会う事など、まず無い。したがってその計画は、よほど秘密裏に実行される必要があった。ところが、ほっつき歩いた跡を辿るオーブリーの目は、間もなくして密会が予定されたことを発見した。おそらくこれで、無垢だが分別を欠く少女は破滅に終わるのであろう。
時を移さず、ラッスェン卿の借りた部屋に押し掛けるや、かの女性に対する意図を尋ねると同時に、かくかくの夜の逢瀬に気づいたぞと告知したもの。
ラッスェン卿答えて、意図したのは、そういう時に誰もが考えるものと、君が思っていた通りだと。彼女と結婚するつもりなのかどうかと迫られても、一笑に付した。
オーブリーは退き下がった。直ちに短信を書いて曰く。これよりお断りしなければならないのは、お誘い頂いた旅ながら、もはや閣下と同行は出来ないものと。使用人には他の部屋を探すよう命じ、当該女性の母親を訪ね、その娘の事に留まらず、知りうる限り卿の性格すべてを報せた。
企ては阻止された。翌日、ラッスェン卿は使用人を送って、別離への同意を通知したのみ。オーブリーの介入によって計画が失敗したなどとは一切漏らさなかった。